筋肉ゴリラWeb担当の虎の巻

2019年9月からスタートしたWEB担当ブタゴリラの考察あれこれです!

企業のゴールとは? “貢献する”Webサイトのための「KGI」について

コンバージョンがどれぐらい起こるか、サイトの成績が下がっていないか、これをチェックするための指標が「KPI」だということを前回書きました。KPIはコンバージョン(ゴール)よりも手前で使うものですが、ゴールそのものの指標は「KGI」と呼ばれています。

ですが、「KGI」は、本来の意味でのゴールとは少し違うものと考えたほうがよいです。企業のゴールとは? そしてそれはウェブとしてどうあるべきか(KGI)?を改めて考えていきたいと思います。 

CVRとKGIは似て非なるもの
区分して考えられるように慣れましょう

先日ある企業人と話していたら、CVR(コンバージョン率)とKGI(経営目標達成指標)今回の本論に入る前に、少し整理したいと思います。

まず、CVRは、「Conversion Rate」、つまりコンバージョン率の略。
「顧客転換率」と訳されますが、要は「サイトを訪問した人」が「顧客」へと立場を変える、転換する割合ということです。CVRはウェブの成果を測る指標の1つですが、この「指標」という日本語がややこしくさせてるのかもしれません。
CVRはあくまでウェブ上で得られた割合(数値)を表します。
基本はパーセンテージで次の式で算出します。

コンバージョン数÷総訪問数×100=CVR(%)

例:1万人がサイトを訪問して、そのうち100人が購入した
100人÷1万人×100=1.0%(CVR)

そもそもコンバージョンとは、多くの場合「もうお客様と呼んでくれてもよいですよ」と、“訪問者自身が何かアクションを起こしたこと”を軸にして測るものです。ショッピングカートや資料請求、懸賞への応募といったフォームから、情報を送信することで、個人情報を相手に与えるということは、一種のパーミッションを与える行動で、つまり企業と訪問者が、基本的な信頼関係を結んだことになります。

もちろん、そこまで本人があまり意識していなくて、ただ「資料がほしい」「プレゼントが当たればいいな」としか考えていないかと思います。だから企業は冷静に「あなたは今、個人情報を送ろうとしているんですよ。うちではこういう目的で使いますよ」と宣言して、OKさせる必要があるのです。どんなにOKさせていても、人は、自分がウェブサイトからプレゼントに応募したことを、3週間も経つときれいに忘れがちです(笑)。いざOKしてもらった項目に従って情報を活用しても、「どこで私の個人情報を入手したんですか!」とお怒りのメールが届くこともあります…。
企業側は慎重を重ねることが必要なのです。

ともかく、コンバージョンは、「ある程度、訪問者本人が意識している行動」ということになります。ウェブ上にあらかじめ設計されている構造(送信フォーム、カートといった仕組み)だから、訪問者にもわかりやすいのは当然です。

ただしコンバージョンは、あくまでウェブ上に閉じた行動のため、企業側も実は慣れていない場合があり、手渡しで「はいどうぞ」と渡しているパンフレットを、サイト上の「資料請求」という形にしたとき、個人情報だから扱いはていねいにするにしても、活用する手だてや準備が不十分で、せっかく得られた情報をそのまま寝かせて無意味化している会社も多いのではないでしょうか。

「新商品発売」というタイミングでいざメールを送ったら、先ほどの例のように、怒りを買ってしまったり、アドレス不在で帰ってきたり・・・。本当なら、あくまで目標は「パンフレットをより多くの見込み客に渡す」ことだったわけですから、情報活用はできなくても成果としては成功し完結しているというべきでしょう。

つまりCVRは、ウェブサイトがウェブサイトとして設計され、そこで成果が出たかどうかという実態に限定された数値なのである。これはCVRを軽んじてよいという意味ではないです。訪問者の意識の上に成り立っている、ウェブサイト上に限定されている、だからこそWeb担当者はCVRに対して真剣になりますし、会社としても最も注目すべき値なのだと言えます。

KGIとは「経営目標達成指標」のこと
では企業のゴールとは何か?

一方、KGIは「Key Goal Indicator」(キーゴールインジケータ)の略です。経営の世界では、「経営目標達成指標」と訳されてきたものです。ここで言う「ゴール」にはコンバージョンも含まれるが、それだけだとは限りません。企業にとってゴールとは何でしょう?ミッションステートメントは会社ごとにさまざまですが、共通するのは株主への配当と社員の最大幸福です。その前提として「利益の極大化」がゴールだといってよいでしょう。こんな話は当たり前すぎて、退屈かもしれませんが、もう少し考えを進めていきましょう…。

利益を極大化するということは、売り上げを増やして経費を減らすことです。
これが実はそんなに当たり前ではない。売り上げ至上主義になっていて、経費がかさみ、結果「増収減益」となっている会社が非常に多いです(図1)。

図1 利益極大化のためのポートフォリオ
図1 利益極大化のためのポートフォリオ
売り上げは大切ですが、「売れれば経費はまかなえる」という経営者の期待に、現実は必ずしも伴いません。売り上げ至上主義になっていて、経費がかさみ、結果「増収減益」となっている会社は非常に多く、その場合、勝負する土俵、商品の付加価値などを見直すべきかもしれません。まずはポジションマップで自社の位置を確認してみましょう。

さらに、激しい競争が行われている業界では、シェア至上主義にならざるを得ず、値引き合戦の結果、「減収減益」でもシェアは伸びたという状態もよくあります。経営の原則では、シェアが高まれば次の段階で価格決定力が手に入り、その結果、売り上げも利益も増えるはずだからです。シェア争いに耐えるために厳しいリストラをくぐり抜けてきた企業は、この段階で大きな果実を手にするはずでした。がしかし、残念ながら、そうはいきません。価格は結局は流通に握られていて、消費者は値上げを許さない、などの事情から価格が低下し、シェアはとったが市場ドライビング力は上がらないということも多々あります。

売り上げ至上主義の会社は経費削減を考えていないという意味ではありません。
勝負する土俵、商品の付加価値などを見直すべきかもしれないということなのです。
つまり「売り上げ」「経費」の2極だけを見ているために、第3極である「対市場価値」が見えなくなっている恐れがあるのです。

さて、こういった要素を踏まえたうえで、「企業のゴールとは何か」をもう一度考える必要があります。そもそも、あなたの企業のウェブサイトは、企業のゴールに貢献すべく作られているのでしょうか?

CVRはあくまで「数値」の表出
KGIは行動のための「指標」

私に言われなくても、釈迦に説法かもしれません。
企業経営者は常に自社のゴールを意識しています。ここでまず言いたかった点は、「ゴールとは、ウェブのもう1つ奥にある」ということです。そこがコンバージョンとの違いの1つなのです。

たとえば、自動車メーカーにとって、ゴールの1つは「車が売れる」ということでしょう。このゴールの増加を反映するものとして、ウェブサイトからの資料請求があります。特に自動車などの高額商品では、資料請求と売り上げの間には比較的高い相関があります。ということは、「ウェブからの資料請求を増やせば、車が売れる」のです。
「ゴール=車が売れる」としたときに、「資料請求が増えるか減るか」がウォッチすべき「KGI」であるといえるでしょう。ゴールが奥にあり、それを反映するものとしてウォッチするというところに「KGI」は存在する。インジケータとゴールは同じではないのです。

そもそもインジケータとは警告灯・状態表示灯のこと。インジケータを見ていればすぐに変化の意味が伝わり、何をすべきかわかり、行動に移すことができます。気がついたらすぐ行動に移せる、そのとき必要な行動が決まっているというのもインジケータを使う大きな意義です。たとえば車を運転していて、ガソリン警告灯が光ったら、「残り30キロメートルぐらいの間でガソリンスタンドに入らなければ車が止まってしまう」とわかり、運転者はガソリンスタンドを探すでしょう。

これらを踏まえて、あらためてCVRとKGIの違いを確認しておきましょう。
まずCVRの「R」はレート、率、つまり1つの数値。その観点は

  • 「大きい」「小さい」という絶対値で捉えられる
  • 「伸びた」「悪化した」という変化がわかる

だけであって、「それが増えるのが、本当に良いことか」という見方や「どうしたら増やせるか」という行動は含まれていません。「量的」な意味に限定されたものだといってもよいでしょう。

一方、KGIの「I」はインジケータ、警告灯。それは、

  • 「表示されている状態」と「その意味すること」がすぐわかる
  • 「光ったらどう行動するか」が、あらかじめ決まっている

という「質的」「計画的」「行動的」なものだということが決定的な違いなのです。

つまり、「CVRが悪いがどうしたらよいだろう」という質問はありえますが、「KGIが悪いがどうしたらよいだろう」では、それはそもそも、ちゃんとしたKGIではないということになる。当たり前ですよね…(笑)

ウェブも現場的なゴールを目指すが
企業の「ゴール」は1つではない

大きなゴールは戦略の中にあります。自動車の例ばかりで申し訳ないですが、1990年前後に、オートキャンプやRVカーのブームがありました。この頃、自動車メーカーはこぞってRVカーや4WD車を販売しましたし、米国風の「SUV」(スポーツユーティリティビークル)という名称も広まるなど、少しずつ海外にも目が行きました。

これを単純にオートキャンプブームだと思っていた人も多かったのですが、自動車会社首脳に言わせれば、これはもともと世界戦略だったのだそう。自動車が売り上げも利益も拡大し続けるには、市場の開拓が必要。そのためには道路舗装率の低い開発「直前」国で売らなければなりません。砂漠、ジャングル、山岳、寒冷の国なら、そこを走れるRVカーや4WD車が必要となったです。こうした世界戦略の一端として、オートキャンプブームが国内の現象となって見えていたのです。このように戦略の一端がブームという形で現れることは多いです。

しかし、営業現場は違います。そんな深みや時間の流れに付き合うべきではありません。時代はオートキャンプだとなれば、オートキャンプを自己目的化して突き進まなければなりません。経営者の世界戦略のように、何年がかりというわけにはいかないのです。

今のウェブサイトは、より現場に近いものとなっています。
そこで目指されるゴールは、「売り上げアップ」のように、現場的・短期決戦的・自己目的化されたゴールであることが多いです。だから量的となりやすく、CVRでも把握しやすかったのだといえるでしょう。

実際には、ゴールはいくつかの「極」で形成されます。1つの極はもちろん「売り上げアップ」です。多くのウェブサイトは、売り上げアップをゴールに想定して構築されています。だが一方で、もう1つの極に「コストダウン」もあります。「売り上げアップ」と「コストダウン」が揃って初めて、図1で見たように「利益極大化のマップ」は成立するのです。

コストダウンも利益極大化に欠かせないものですが、こちらは現場の短期決戦的・自己目的的な考え方と対立することがあります。しかしたとえば、ネット以外で獲得した顧客を営業マンがケアしているフローが、ウェブ化され、営業マンの手数が減るとしたらどうでしょう。これも大きなコストダウンですよね。データベースでOne to One化していけば、さらに客単価×購入頻度×継続年数といった要素からなる「LTV」(ライフタイムバリュー)を高められるかもしれません(ただし、現場にとっては、自分の仕事や成果を持続させたいという考えに反するものと)。

あるいは、海外の安価な仕入れ先から売り込みのメールが増えれば、助かるかもしれません。これは調達や製品情報、R&Dの英語版をウェブに掲載するのが効果的です。もちろん売り上げ拡大・販路拡大にも英語版を始めとするウェブの海外対応は欠かせないものでしょう。

このように、ウェブに設定できるゴールの座標は決して1つだけではありません。
ウェブが現場的なゴールを目指すことを否定するものでは、もちろんないです。
しかし、企業のゴールはそれだけではないこともまた事実なのです。

企業のニーズとサイトの一致が重要
KGIがゴールを明確に意識させる

さらに「実際の収益」を配慮した順列組み合わせを含めて考えると、多くの状態が成立します(表1)。

表1 売り上げ/経費/収益のマトリックス
表1 売り上げ/経費/収益のマトリックス 「売り上げアップ」と「コストダウン」が揃って初めて、図1のポートフォリオのような「利益極大化」が成立します。だがゴールはそれだけではありません。「実際の収益」を配慮した順列組み合わせを含めて考えると、多くの状態が成立し、それぞれの状態における最善のゴールも想定可能となるからです。

給料のベースアップや仕入額の増加、設備投資といった要因があるので、経費を横ばいで抑えるだけでも並たいていの仕事ではありません。そのうえ、得意先からの値下げ要求もあるでしょう。

あるいはゴールの極として、もっと別の側面、たとえば企業・製品の“付加価値”を重視する場合もありますよね。たとえば、「個人株主を集めたい」という考えはどでしょう。敵対的買収に備えるために、企業のファンだから株を買い、長期的に保有しようという安定株主が増えれば、TOBは難しいものになります。安定株主は多くが一般の個人です。また、ネットでどんどん株の売買をしようというデイトレ系の人よりも、タンス株券化するタイプの人が望ましいです。

企業にこうしたニーズがある場合、ウェブサイトはどう行動すればよいのか。その目標にウェブが貢献しているかどうか、どう評価し、貢献度を高めるにはどう行動したらよいのでしょうか。

大半の上場企業のサイトで、個人投資家向けの情報は足りていないように思います。たとえば、典型的なB2B裏方型の企業がテレビCMでおもしろい映像を流して話題になることがあります(本当に黒衣をキャラにCMしている会社まであります)。こうしたことがウェブ側ではどう位置づけられ、コンテンツが形成されているでしょうか。CMコーナーに行けばそのCMが見られますが、IRコーナーにはCMと連動したイメージもなければ、別の何か個人投資家向けの情報もなかったりします。投資家向けの商品詰め合わせプレゼントが人気で個人株主を集めている有名B2C企業もありますが、そのIRコーナーにも、そうした記述がないこともあります。

経営者の戦略の中にある、他の、あるいはもっと深いゴールが、ウェブサイトにまったく反映されていないのでは困ります。現場のゴールだけでもたくさんあります。CVRでは測りにくいものも多い、企業ブランド向上といった目標もそうでしょう。たとえば「“良い大学”の学生から新卒採用エントリーを得る」というのも、「質的」という意味でCVRでは測れないものだ。

今回、ウェブの世界に「KPI」「KGI」という言葉が入ってきて、一番強く光が当たったのはこうした側面ではないかと思います。ウェブサイトに「ゴール」が作られているか? 「KGIを考える」とは、そこに照り返すものなのではないでしょうか。